【大久保登喜子の 今日も馬日和】〜Tokiko’s Horsy Journal〜 東京五輪は日本選手にどのくらい有利か?

大久保登喜子 TOKIKO OKUBO

長年にわたって、「乗馬ライフ」「馬術情報」などの編集・制作に携わり、国内外の馬術競技会や、馬のイベント、選手、馬に携わる人たちを取材、交流を続けている国際馬術ジャーナリスト。著書に「ヨーロッパ夢の競馬場 ぜ〜んぶ馬の話」、翻訳書に「クラウス・フェルディナンドの触れ合い調教法 馬と踊ろう」、「ホースライディングマニュアル」などがある。

 

 ここでは世界に目を向けて馬術界の最新の話題をお伝えしていきます。東京2020が迫ってきました。オリンピックを目指す日本のトップ選手はほぼ全員海外で研修中ですが、日本選手が現在世界のどのあたりで戦っているかなど、みていきたいと思います。
インターナショナルの大きな競技会ルポ、世界のトップ選手の日常、恐ろしいドーピングの罠など、国際的な話題に迫ります。
今回は1月に日馬連が行った2018年度の表彰式の折に総合馬術の大岩義明選手にインタビューしたものです。大岩選手は昨年度インドネシア・アジア大会で個人、団体ともに金メダルを決め、世界選手権大会では団体4位と日本の過去最高位をマークしました。
FEI(国際馬術連盟)が年に一度総会で表彰するベストアスリートにもノミネートされていたぐらいです。賞は外しましたが(WEG=世界選手権において女子で初めて優勝したドイツのジモネ・ブリュムが取った)、候補に上がるだけでも、世界からしっかり注目されている証拠で、大変名誉なことです。
東京2020でいちばんメダルが取れそうな種目が総合馬術であることは確か。しかし、総合馬術がドレッサージュ、クロスカントリー、障害馬術の3つの競技から成り立つことすら、日本ではあまり知られていませんね。大岩選手は世界のハイレベルのライダーがクロスカントリーを走行する情景をぜひ日本の観客に見て、知ってほしいと訴えます。

 
アジア大会表彰式の写真パネルにサインする大岩選手
 

東京五輪は日本選手にどのくらい有利か?

2018年はアジア大会、トライオンWEGと引き続いて大変な年だった。日本チームはアジア大会では障害だけが銀メダルであとは金、と、アジアにおいては際立っていたが、一方で世界選手権(WEG)ではあまり奮わなかった。
馬術日本チームの中でいちばん結果を出したのが総合馬術である。アジア大会では団体金、個人でも大岩義明が金とダブル受賞し、トライオンでは団体4位と、これまで8回のWEGを通じて最高のポジションをゲットした。

 


「総合馬術の素晴らしさを東京五輪で日本の観客に知ってもらいたい」©Tokiko Okubo

「東京2020でいちばんメダルに近いのが総合馬術」と、期待と重圧がチームリーダー大岩義明の肩にズシリとかかる。
1月26日、グランドプリンス高輪で開かれた日馬連の平成30年度表彰式に出席した大岩義明選手にインタビューした。

 

クロスカントリーの新設コースはテストイベントまで不明
コースによって適する馬が異なる

「総合馬術で最も重要とされるクロスカントリーですが、コースは海の森に新設されるので、実際に走ってみないとどういう馬が適しているかが分かりません。パワフルな力のある馬が適しているのか、それともテクニカルに適応する馬がいいのか、コースによって異なります。8月にテストイベント(東京2020に向けて、総合馬術を中心とするリハーサル)があり、その時にはほぼコースが判明するけれど、日本チームとしては選手層を厚く、準備する馬匹の層も厚くしておかねばコースに対応できません。私はザ・デューク・オブカヴァン号、キャレ号、バ―トエルJRA号の3頭、レベルの高い競技に対応できる馬を持っているけれど、どの馬が東京2020にふさわしいかは、走ってみないと分かりません。テストイベントのときのコース情報は国際選手の間でパッと広がりますから、日本選手にとっては、ホーム開催だからといって特別メリットというほどではありません。日本選手にとって最大のメリットは日本の夏がどれほど蒸し暑いかをよく知っていることです。メダルを取るために最善を尽くします」



「総合リオデジャネイロ・オリンピックに出場の大岩義明選手、クロスカントリーを走行中。個人20位で終了した。©Tokiko Okubo

総合馬術のシーズンオフである年末年始を日本で過ごした大岩選手は1月末にはヨーロッパのベースに向けて発ち、厩舎に残してきた馬たちの様子を見てから、2019年新シーズンの4スター、5スター戦へ参加していく。ちなみに総合馬術は昨年までは4スターのCCI4*が最難関だったが、今年からは5スターとなり、CCI5*(ロング)と呼称が変わった。難易度がもっとも高い競技会CCI5*ロングはアメリカのレキシントン、イギリスのバーレー、バドミントン、ドイツのリューミューレン、フランスのポー、オーストラリアのアデレードの6カ所。4スターはショートとロングを合わせれば、100をはるかに越す競技会が世界で繰り広げられる。

 



ギリシャのテッサロニキ海岸に建つアレキサンダー大王の騎馬像の前で。大王の馬にはアブミがありません。BC4世紀にはまだ、発明されていなかったのです


ギリシャのテッサリー地方はアレキサンダー大王の愛馬のふるさと、その血筋に近いかどうかは不明だけれど、テッサリアの馬を取材中