【大久保登喜子の 今日も馬日和】〜Tokiko’s Horsy Journal〜  総合馬術選手の快進撃が止まらない

大久保登喜子 TOKIKO OKUBO

長年にわたって、「乗馬ライフ」「馬術情報」などの編集・制作に携わり、国内外の馬術競技会や、馬のイベント、選手、馬に携わる人たちを取材、交流を続けている国際馬術ジャーナリスト。著書に「ヨーロッパ夢の競馬場 ぜ〜んぶ馬の話」、翻訳書に「クラウス・フェルディナンドの触れ合い調教法 馬と踊ろう」、「ホースライディングマニュアル」などがある。

 

 東京2020オリンピックに向けて、馬術の日本チームでいちばんメダルに近いところにいるのが総合馬術です。
今シーズンの活動ぶりを見ていると、トップクラスの国際戦で一歩も引かずに上位につけています。それに選手層が厚いのも嬉しいところ。FEI世界ランキングに目を通して見ても、上位100名の中に5名近くが食い込んでいます。
 東京五輪に向けてJRAのサポートもあり、提供された馬たちは次々と結果を出しています。

  

最難関のバドミントンを2名が完走

 5月1日〜5日に開催されたイギリスのバドミントンCCI5*-Lは格式や伝統、それに難しさからいっても世界最上位に位置する競技会です。2017年に大岩義明が8位になったのが日本選手の最高記録ですが、今年は戸本一真と田中利幸の2人が完走しています。戸本一真&タコマ号が26位、田中利幸&ケレシンパイレーツ号が46位と、順位だけで判断するとあまり振るわないような感じがしますがCCI5*クラスを複数の日本選手が完走したのは初めてです。戸本一真は障害で3落下したのがたたりましたが、さもなければ、10位以内だったかもしれません。
「バドミントンでは5スターの難しさをひしひしと感じさせられました。4スターとは全く違う世界です。障害は大きく、非常にテクニカルです。フランスのポーCCI5*-Lで9位に付けた経験はありますが、いっそう難しかったです」(田中利幸)
 バドミントンを完走したとなれば、世界の馬術界で一目置かれます。今年の優勝はイギリスのピギー・フレンチとヴァニアカミア号。長年の念願を果たして初優勝を決めました。

 

バドミントンCCI5*-Lで戸本一真とタコマ号
©Mitsubishi Motors Badminton Horse Trials/kit Houghton
  

チャッツワースCCI4*-Sで戸本一真優勝

 翌週の5月10日〜12日、イギリスのチャッツワースCCI4*-Sでは戸本一真優勝です。4月19~21日にはアイルランドのバリンデニスクCCI4*-Sにも優勝して(このときはユートピア号で1位、ヴィケンティ号で2位と一人でワン・ツーを決めた)絶好調。
同じ週にオランダのアウドカルスペルCCI3*-Lでは、根岸淳がヴェンチュラJRA号に騎乗して優勝しています。

 

バドミントンCCI5*-Lで田中利幸とケレシンパイレーツ号
©Mitsubishi Motors Badminton Horse Trials /kit Houghton
  

ソミュールCCIO3*-Lで日本チーム優勝

 5月22日〜26日、フランスのソミュールCCIO3*-Lでは日本チームが優勝です。より難易度が高いCCI4*-Lではオーストラリアのクリストファー・バートンが優勝していますが、東京2020オリンピックに向けてのアフリカ、中東、東南アジア、オセアニアの地域予選をCCIO3*-Lで行いました。日本は東京五輪の開催国なので、すでに出場権は保証されているので、地域予選の結果に一喜一憂しなくてもよい立場でしたが、優勝して堂々の実力を見せつけました。この地域予選で2位の中国、3位のタイが東京五輪への出場権を得ています。
日本チームは大岩義明&ヴィックデュジゾールJRA号、根岸淳&ヴェンチュラJRA号、田中利幸&キノロディー・ロンド号、北島隆三&グリーンローン・スカイハイ号の4人馬。

  

リューミューレンCCI5*-Lで大岩義明6位、戸本一真馬場で首位

 ドイツのリューミューレンCCI5*-Lは世界に6つしかないCCI5*-Lという総合馬術競技会最難関の1つ。アメリカのケンタッキー、イギリスのバドミントン、イギリスのバーレー、オーストラリアのアデレード、フランスのポー、それにこのリューミューレンが5スターのロングコースです。
 リューミューレンCCI5*の初日に戸本一真がブルックパークヴィケンティ号に騎乗して馬場で首位に立った、との報が入りました。結局、クロスカントリーで棄権という残念な結果にはなりましたが、5スターという世界の大舞台で一度でも首位に名前が躍り出るのは素晴らしい。
「リュミューレンは残念な結果に終わってしまいました。馬場では1位を狙ってはいませんでしたが、落ち着いて演技さえしてくれれば、そこそこの順位にはつけるだろうと思っていましたが、まさかの首位には私自身が驚きました。
迎えたクロスカントリーは、障害物の大きさこそ、バドミントンの方が大きかった印象でしたが、テクニカルという点ではバドミントンにも負けていないほど難しいコースでした。
実際に私が失敗した障害も、馬一頭分ラインから外れてしまったことが止まられた原因だったので、5スターならではの難しさを痛感しました。
今回の馬は、能力がとても高くオリンピックも視野に入れている馬なので、もう一度低いクラスで調整し直して9月の大きな試合(イギリス、ブレナム)に使おうと思っています」

 

大岩義明はキャレ号で堂々の6位。優勝したのはニュージーランドのティム・プライスとアスコナ号。6月初めのFEI世界ランキングではじめて首位に立った選手です。

 

ストシェゴムCCI4*-Lで大岩義明

  6月27日〜30日に開催されたポーランドのストシェゴム・ホーストライアルズでは、大岩義明は全競技中最も難易度が高いCCI4*-LにバートエルJRA号で挑み、優勝 。ドレッサージュ終了時は2位に付けましたが、クロス終了時で首位に付け、そのまま障害減点なしで優勝を決めました。
ネーションズカップも同時に行われ、そちらは距離の短いバージョンのCCIO4*-Sで戦われたました。優勝はドイツ、2位イギリス、3位オランダ。

 

ストシェゴムCCI4*-Lで優勝した大岩義明とバートエルJRA号
©STRZEGOM HORSE TRIALS
 

8月12日〜14日の東京五輪テストイベントに6名が集合

 東京オリンピックの馬術のテストイベントが8月12日〜14日開催されます。いわば実際のコースを使ってのリハーサルで、国内外の選手が参加します。開催国の日本選手たちにとっても海の森クロスカントリー場は初体験なので、どんな手応えがあるでしょうか。
「ヨーロッパで活動している総合馬術選手6名全員が馬を連れて参加します。自分の馬の中でどの馬がふさわしいかをよく見極めるチャンスですから。私はその後、イギリスに戻って、8月22日からのアイルランド・ミルストリートの4スター出場です」(田中利幸)
 選手たちにとって、来年の本番まで熱い夏が続きます。


バドミントンCCI5*-Lで初優勝したイギリスのピギー・フレンチとヴァニアカミア号 ©Mitsubishi Motors Badminton Horse Trials /kit Houghton