大久保登喜子 TOKIKO OKUBO
長年にわたって、「乗馬ライフ」「馬術情報」などの編集・制作に携わり、国内外の馬術競技会や、馬のイベント、選手、馬に携わる人たちを取材、交流を続けている国際馬術ジャーナリスト。著書に「ヨーロッパ夢の競馬場 ぜ〜んぶ馬の話」、翻訳書に「クラウス・フェルディナンドの触れ合い調教法 馬と踊ろう」、「ホースライディングマニュアル」などがある。
目のくらむような賞金!!
ロレックス・グランドスラム 優勝はケント・ファリントン(USA)
(アーヘンCHIO)
規模も質も世界一級のアーヘンCHIO。大会を締めくくるのが最終日のロレックス・グランプリである。賞金100万ユーロ。日本円にして1億円を上回る賞金(7月31日現在1ユーロ=約121円)がかかっている。そのうち優勝者には33万ユーロ(約4千万円)。ロレックスが展開する4カ所のグランドスラム大会(ドイツのアーヘン CHIO5*、カナダのスプルスメドウズCSIO5*、スイスのジュネーブCHI5*、オランダのダッチマスターズ5*)のどれかに優勝すると、高額賞金はもちろんのこと、さらに夢のような未来が広がる。
4連覇すると賞金の他に200万ユーロのボーナス、3連覇すると100万ユーロのボーナス、2連覇でも50万ユーロ、連覇ではなく、間をおいて優勝した場合でも25万ユーロのボーナスという大きな夢である。これまでに3連覇を果たしたのは2015年のイギリス、スコット・ブラッシュがただ1人。ドイツのマーカス・アーニング、スイスのスティーブ・ゲルダが間をおいて2回優勝、スコット・ブラッシュは3連覇の後、間をおいてさらに1勝している。
1回目走行でクリアラウンド9名
世界のトップ中のトップ選手が狙うロレックス・グランプリのコースはやはり凄まじい。コースデザイナーはフランク・ローテンベルガー氏。
7月21日、午後3時15分スタート。アーヘンは晴天で午後の日差しが直撃する。
2回走行+ジャンプオフで、高さは170cm、分速400m。
1回目走行のコースは14障害18飛越、回転が多く、最終ラインのトリプルをうまくクリアしても最後の14番障害でつまずく人馬が多かった。2回目走行のコースはガラリと変わって、障害数は減ったが、疲れた人馬に容赦ない12障害15飛越。
予選を勝った40名が出場する第1走行ではそれでも9名がクリアラウンド。ドイツのダニエル・ドイサー、同じくシモーヌ・ブリュム、アメリカのケント・ファリントン、同じくマクレーン・ワード、イギリスのベン・メイハー、フランスのケビン・スタウト、アイルランドのダラー・ケニー、ベルギーのジェローム・ゲリー、スイスのマーチン・フックスの9名である。18名に許された第2走行に進出できるのはあと9名。1落下した選手のうち約半数しか第2走行に進出できない。
世界ランキング1位のスティーブ・ゲルダ、同2位のペダー・フレデリクソン、9位のビージー・メイデンは減点4ながらタイムが良くて第2走行に進出した。
ロレックス・グランドスラムは4カ所。アーヘンの次はカナダへ。ケント・ファリントンとガゼル号のウィニングラン ©Tokiko OKUBO
2回目走行の全員がジャンプオフに進出
休む間も無く開始した第2走行は、いくらかコースにゆとりができ、クリアラウンドが10名出た。ジャンプオフは18名全員が走行する。
ジャンプオフではベン・メイハーが1落下して、ケント・ファリントン減点0、最終走者のダニエル・ドイサーに地元の熱い期待がのしかかる。クリアラウンドしたが1完歩多く入れたために0.63秒差でアメリカのケント・ファリントン(38歳)とガゼル号に負けた。
マクレーン・ワードは、タイムはいちばんだったが、2落下を喫して7位に後退した。3位は1落下のベン・メイハー。
ケント・ファリントンは2017年のジュネーブ大会で優勝しているから、間をおいて2回目のボーナス、25万ユーロもゲットした。
ファリントンは世界ランキング首位につけていた2018年に2月に大怪我をして回復に手間取り、やっと1線で戦えるようになって、苦労している。
「アーヘンのロレックス・グランプリは世界最高の選手と馬たち、最高レベルのスポーツに会える場所、そこに復帰できただけでも嬉しいのに、優勝できるとは夢のようだ。アーヘンにきて以来1週間毎日戦ってきたが、優勝から見放されていた。最後にこんな特上の優勝を手に入れられるとは。次のグランドスラムのスプルスメドウズにはもちろん行き、2連覇を狙う」(ケント・ファリントン)
ダニエル・ドイサーは僅差で2位に退き、地元ファンをがっかりさせたが、
「勝てたかもしれないが、障害が大きいので、トバゴ号の体に合わせて1歩余計に入れた。2位で満足している」(ダニエル・ドイサー)
4位のシモーヌ・ブリュム(30歳)は2018年トライオンWEGで個人金メダルを獲得した。WEGの障害で女子選手が優勝したのは史上初めてで、人気沸騰中の選手である。
ロレックス・グランドスラムの優勝者、ケント・ファリントンのウィニングランでスタジアムはさらに盛り上がり、長かったアーヘンCHIOもフィナーレ。スケジュールに少しの乱れもなく、定時に幕が降りた。2020年のアーヘンCHIOはジャパン・イヤーである。
(2019年7月21日 アーヘンCHIO)
アーヘンCHIOのロレックス・グランプリに優勝したアメリカのケント・ファリントンとガゼル号 ©Tokiko OKUBO
<順位>
1位 ケント・ファリントン(USA) 0/0/0 43.98
2位 ダニエル・ドイサー(GER)0/0/0 44.35
3位 ベン・メイハー(GBR) 0/0/4 43.94
4位 シモーヌ・ブリュム(GER) 0/0/4 46.88
5位 ダラー・ケニー(IRL) 0/0/4 48.04
国の略号 USA=アメリカ、GER=ドイツ、GBR=イギリス、IRL=アイルランド
ジャンプオフの結果、わずか0.38秒差で2位になったドイツのダニエル・ドイサー ©Tokiko OKUBO
ジャンプオフで1落下、3位に落ち着いたイギリスのベン・メイハーとエクスプロージョン号 ©Tokiko OKUBO
2走行クリアラウンドして観客を熱狂させたシモーヌ・ブリュムとアリス号、ジャンプオフで1落下して残念な4位 ©Tokiko OKUBO
アイルランドのダラー・ケニーとババルー号、5位入賞。