【大久保登喜子の 今日も馬日和】〜Tokiko’s Horsy Journal〜 アーヘン馬場CDIO5*

大久保登喜子 TOKIKO OKUBO

長年にわたって、「乗馬ライフ」「馬術情報」などの編集・制作に携わり、国内外の馬術競技会や、馬のイベント、選手、馬に携わる人たちを取材、交流を続けている国際馬術ジャーナリスト。著書に「ヨーロッパ夢の競馬場 ぜ〜んぶ馬の話」、翻訳書に「クラウス・フェルディナンドの触れ合い調教法 馬と踊ろう」、「ホースライディングマニュアル」などがある。

 

アーヘン馬場CDIO5*

50歳の誕生日にアーヘンCDIO5*に優勝したイザベル・ベルト
個人1〜3位をドイツが独占

 

 馬場馬術自由演技はレベルの高い競争となった。イザベルは90%台をマークし、80%以上が8人馬、11位までが79%台の上位にひしめいていた。とはいえ圧倒的にドイツが強かった。

 

 アーヘンCHIOのメーン競技は障害馬術CSIO5*のロレックス・グランプリとドレッサージュCDIO5*である。7月12日から21日まで連日展開した競技を締めくくる21日、最終日の午前10時から5スターのグランプリ自由演技が行われた。
 このところ、ドレッサージュはドイツがダントツで世界一の地位にいる。長年ドレッサージュ王国と言われてきたドイツではあるけれど、ワールドカップ決勝に音楽付き自由演技(キュア)が取り入れられてから、1995年にオランダのアンキー・ファン・グランシュファンが優勝し、引き続いて8回のワールドカップ決勝金メダル、3個のオリンピック金メダルを取っている。同じくオランダのエドワード・ガルとトティラス号のコンビがドレッサージュ史上初の90%台を打ち出して、しばらくの間オランダが王座にいた。
 しかし、このところドイツの天下が戻って安泰だ。ワールドカップではアンキーに敵わなかったイザベル・ベルトが、今は敵なしの状態にいる。
アーヘンでも十分に強さを見せつけた。
イザベルの一番馬ワイエゴールド号は繁殖シーズンなのでしばらく使えない。2番馬のベラローズ号に騎乗しての壮挙である。2番馬と言っても、イザベルは両馬で世界ランキングのワン・ツーを決めているのだから、当然のなりゆきにもみえる。
とはいえ、イザベルは「どんな試合だって全力を尽くさなければなければ勝てない。イザベル・ベルトだから勝って当然と言われるが、そんな生易しいものではない」と話している。
 会場は満席で、プレス用の座席までソルドアウトしてしまったという。仕方なしに私たちは会場内の跨線橋のようなところでカメラを構えた。最終戦の自由演技に進出したのは15人馬。

 

3個のメダルを独占したドイツ選手、左からドロテ・シュナイダー(銀)、イザベル・ベルト(金)、ジェシカ・フォン・ブレドウ・ウェルンドル(銅)©Tokiko OKUBO

  

スタンディングオベイションに沸くスタジアム

 初日以来グランプリ、グランプリスペシャルともドロテ・シュナイダーとショータイム号が素晴らしい演技を見せているので目を離せない。
 注目の人馬を紹介しよう。最近好調のデンマーク、ダニエル・バックマン・アンデルセンとブルーホース・ドンオーブリオ号の演技はドイツのドレッサージュとは少しムードが違う。動きに切れがあり、エレガントだが、80.250にとどまった。
ドロテ・シュナイダーとショータイム号はオーソドックスできっちりとした演技。芸術点は90台をつけたジャッジもいて、89.660の高得点を打ち出した。イザベルをしのぎそうな勢いである。
ロンドンとリオ・オリンピックのチャンピオン、イギリスのシャーロット・デュジャルダンとエーレンタンツ号は正確でパワフルな演技を展開し、83.995。デンマークのカトリーヌ・デュフォーとボヘミアン号は優しい音楽とよく調和するしなやかな演技で85.390。ジェシカ・フォン・ブレドウ・ウェルンドルとダレラBB号は人馬ともエレガンスそのもので87.595。
 高得点が続く中、最終出番のイザベル・ベルトと明るい栗毛のベラローズ号が登場すると、そこはもう別世界となった。音楽は「ある晴れた日に」「歓喜の歌」などオペラや交響曲を取り入れた新しい試みで、人馬とも余裕しゃくしゃくの演技である。イザベルが最終ラインに入ると、観客からリズムに合わせて手拍子が起こり、最後はスタンディングオベイションで人馬を讃えた。感動の場面だった。得点は90.450。この人馬の史上最高点をマークした。

ちょうど7月21日はイザベルの50歳の誕生日、この上なしのプレゼントとなった。

 

アーヘンCDIO5*に優勝、この人馬の史上最高点をマークしたイザベル・ベルトとベラローズ号  ©Tokiko OKUBO
  

<順位>
1位 イザベル・ベルト   (GER) ベラローズ号90.450
2位 ドロテ・シュナイダー  (GER)ショータイム号89.660
3位 ジェシカ・フォン・ブレドウ・ウェルンドル(GER) ダレラBB号87.595
4位 カトリーヌ・デュフォー   (DEN)ボヘミアン号85.390
5位 シャーロット・デュジャルダン(GBR)エーレンタンツ号83.995
国名略号 GER=ドイツ、DEN=デンマーク、GBR=イギリス

 

 

キャリアは長いが同人馬の最高得点を獲得した2位のドロテ・シュナイダーとショータイム号 ©Tokiko OKUBO
  

3位のエレガントなジェシカ・フォン・ブレドウ・ウェルンドルとダレラBB号 ©Tokiko OKUBO
  

4位、デンマークのカトリーヌ・デュフォーとボヘミアン号 ©Tokiko OKUBO
  

5位にロンドン、リオ・オリンピックの金メダリスト、イギリスのシャーロット・デュジャルダンとエーレンタンツ号 ©Tokiko OKUBO